Pythonを使った数値計算入門
近代科学社Digitalから、「Pythonを使った数値計算入門」、著者 岡本久・柳澤優香、が2025年2月21日に発刊された。Amazonで予約購入をしていたものが届いたので早速読んでみた。
本書は著者が学習院大学理学部数学科で行ってきた講義の資料をまとめて改訂したものとのことである。
「まえがき」を見ると、「デジタル人材の育成が急務であると叫ばれているときに、定義・定理・証明・終わり、というだけの数学では不十分である。(途中、省略)数値計算することによって初めて開けてくる世界を見るべきである。」とあり、誠に同感である。
本書は、Pythonを利用するコンピュータ言語として選び、Jupyter Notebookを使うことで、内容をそのまま講義に使える形式にまとめているところがとてもうれしい。読者は本文に記載されている説明(実に丁寧、かつ適切な長さの文章)とPythonコードリストを違和感なく交互に、自然に読み進めていくことができるスタイルになっている。読者は、数学の内容がPythonから出力という形に変換されて実現されていくことに驚き楽しみながら、約180題にのぼる豊富な問題演習を通じて、理解が深まるのは間違いがない。
本書の「目次」をみると、
第1章 基礎的な使い方、第2章 数値計算の主役、 第3章 応用、 第4章 数論の問題、
第5章 解析学の話題から、 第6章 さらなる応用、 付録A 解答例、 あとがき、 参考文献
という構成となっている。
著者の考えでは、大学1年間の講義での利用を念頭においたようで、第1章~第3章が毎週1節ずつの講義(実習)で半年の講義になり、第4章~第6章は1年間の残りの期間での利用ができるとのことである。
本書の全般にわたって、数値計算の習得に重要な項目が、Pythonで手を動かしながら読み進めていける。また、第3章 3.5数式処理でのPythonのSympyの紹介や、第6章の素数定理とコンピュータでの確認という数学科ならではの内容の紹介をしていることもとてもうれしい。
今や、だれでもPythonといったコンピュータ言語を使えば、その裏側で行われている計算に関係する数学やアルゴリズムを知らなくても、答えが出せる時代である。
CAEはとにかく実用的な解を得るためにいろいろな近似法を案出して進歩してきたし、データサイエンスはソフトウェアや計算機のパワーを背景にものすごい勢いで、社会の仕組みの中に浸透しつつある。
そのような中、本書を読み返しながら、応用に携わる側は、自分のやっていることはどのようなアルゴリズムで実現されているのか、数学とはどのような関係をもつのか、といったことをじっくりと考える時間をつくることが必要であろう。
一方で、数学科の学生がこの本に取り組み、数学の内容をPythonによって具体化してグラフィックスや数値の動きとして眺めてみる経験を積み重ねていく過程で、現在の数学をもっと使いやすくしたい、そのために数学をもっと極め、いままでよりも適用しやすい数学を構築しようといったことにつながればよいと思う。
このような本を出版されている近代科学社にも応援メッセージを届けたい。大学や教育機関で培われている内容をどんどん社会に発信していただきたい。
近代科学社Digital 教科書発掘プロジェクトが世の中をより良いものにしていくことを願っています。