音響メタマテリアル

メタマテリアルとは、何でしょうか。

メタはmeta、マテリアルは材料です。metaは、「超越した」を意味するギリシャ語の「メタ」が頭にくっついているので、「自然界にある物質を超える機能を示す物質」のことです。

今回は音響におけるメタアテリアルについてお話をしたいと思います。

準備

音波を考えます。音波は波動ですので、伝播速度と振動数を持ちます。空気中の音波の伝播速度c は音速と呼ばれており、おおよそ 340 m/s です。いま、振動数 440 Hz で音を出すとします。そのときの音の波長 λ は伝播速度 c を振動数 f で割り算すれば求まり、340/440 = 0.77 m となります。人の身長の半分程度の長さですね。

音速は温度一定の環境下では一定ですので、振動数を低くすると音波の波長は長くなり、振動数を上げれば音波の波長はどんどん短くなります。

さて、波の音圧pは時間tと空間xの関数です。そこで、jを虚数単位としたとき、音圧はp(t,x) = A exp (j (ωt – k x))、ここでkは波数であり、k = ω/c 、と記述できます。ωは角周波数(角振動数)であり、ω = 2 π f の関係があります。音圧が複素数で表されているのは変に思うかもしれませんが、測定される音圧と比較する際には実部のみを評価すると決めておけば問題ありません。

いま、単一音源からの音波のある点が時刻 t = t_1 で x = x_1 にあるとすると、そこでの音圧は A exp (j (ω t_1 – k x_1 ))と決まります。これは音圧分布の1点に印をつけたことになります。音圧が小さくて波形が歪まないとします。時刻 t = t_2 (> t_1 ) で はこの印が x = x_2 の位置に移動するわけですが、波形がひずまないので、平行移動をするだけです。すると、時間差 δ = t_2 – t_1 の間に、この印は音速 c で移動するので、x_2 = x_1 +c (t_2 – t_1) に位置を移します。移動距離 δx = x_2 – x_1 = c δt という関係があり、時間差と関係しています。そこでの音圧は A exp(j (ω t_2 – k x_2))と表されます。一方で、この波形は時刻t_1の波形が移動してきたものであり、A exp(j (ω (t_1 + δt) – k (x_1 + δx))に等しいはずです。実際にδt = t_2 – t_1、δx = x_2 – x_1 を代入しますと、A exp(j (ω t_2) – k x_2))となって確かに一致します。 音速 c は、音波のある一点を追跡する際に、時間差とその間の移動距離とを変換する役目をもっていることがわかります。ここで考えている音波の音速はどの場所でも同じ値を取るとしているので、時刻 t = 0 で生じた音波はどの点をみても、時間経過とともに、音速 c で移動することになり、波形はゆがまず、空間方向に平行移動していくと考えることが出来ます。

今度は、2つの音源を考えます。振動数は同じだとします。すると角振動数も同じです。波数 k は ω/c ですので波数も同じです。各々の音圧を p_A = A exp(j (ω t – k x))、p_B = B exp(j (ω t – k x) + j δ) とします。δは位相差であり、実部δ_rと虚部δ_iとして、δ = δ_r + j δ_i です。δの原因は、2つの音源がある時間差をつけて振動を開始したか、あるいは、ある距離だけ離れた位置で振動をしているか、その両方、のいずれかです。音圧が弱く波形が歪まない場合は線形音波と呼ばれ、音波を重ね合わせたものも音波になります。この二つの音波を足してみると、結果は p_mix (t, x) = A exp(j (ω t – k x)) + B exp(j (ωt – k x) + j δ) と表すことが出来ます。実部を取ってみると、観測される音圧 p_mix, obs(t, x) = real (p_mix(t, x)) = A cos(ω t – k x) + B cos(ωt – k x + δ_r) となり、δ_r の大きさによって、p_mix, obs(t, x)は強め合ったり、弱くなったり、完全に0となって打ち消し合うところも出てきます。複数の音源を使うことで、音波の形を制御できると言えます。

その制御に関係するものは、波数 k と位相差 δ です。ある振動数の音波を考えたとき、exp( j (ω t – k x + δ))のうちで大きさを変更できるのは kと δ だからです。

音速は媒質の体積弾性係数 K (単位: Pa)と密度 ρ (単位: kg/(mの3乗))の比の平方根で決まります。音速は空気中では約340 m/sですが、水中では約1500 m/sととても大きい数値をとります。これは空気に比べて水が固くて軽いからです。音源の振動数は同じでも、音速を変化させることができれば、波数を制御できます。波数を制御できれば、音源の性質による位相差と合わせて音波の位相を制御できることになります。

音響メタマテリアル

ある媒質を伝播する音波は、媒質のもつ構造の詳細ではなく、その媒質の平均的な体積弾性係数や密度がどのような数値になっているかを感じとり、それらに応じた音速で伝播します。従って、媒質中に音波の波長よりも小さな構造を敷き詰めて、その領域で得られる平均的な物性特性を制御します。そうすると、音波を自在に制御できるようになります。

微細構造を組み立てるために使われる物質は自然界にあるもの(空気、水、弾性体、錘など)ですが、波長以下の微細構造をうまく設計し、それが生み出す平均的な体積弾性係数や密度の分布形状を制御してやることで、自然界にない材料、つまり、メタ材料を創り出そうというわけです。

難しそうに見えますが、空気中の音波は波長が100 Hzで3.4m、2 kHzで17 cmといった数値をとるので、公園の真ん中に、直径10 cm 程度の円柱を多数、ある間隔をあけて立てることで、そこの領域の平均特性を変化させて、音波の状態を変化させることが出来ます。

現在では、微細構造をくみ立てることは、3Dプリンタが利用できるので、難しいことではありません。

音響メタマテリアルの例

小さな構造をたくさん使って音響メタマテリアルを実際に制作している例があります。

Acoustic Metamaterials with Steve Cummer

壁に微細構造を設置することで壁表面をメタマテリアルにして、壁面での音波の位相特性を制御する音響メタサーフェスの技術も注目されます。

音響メタマテリアルの例を示した解説記事として下記が参考になります。

山本崇史著 「音響メタマテリアルの研究背景と動向」日本音響学会誌79巻8号(2023),pp.397–403 

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