カルマン渦
見かけからは思いもよらないことが起こるものです。
写真を見てください。
Milton Van Dykeの An Album of Fluid Motionに掲載されている写真です。

水の中に円柱(写真左端)を置いておき、水を左から右へ向けて流します。
直径 1 cm の円柱の場合、水流の速度が 1.4 cm/s になるとこのような渦パターンが円柱の後方にできたという瞬間写真です。電解沈殿という方法を使って円柱表面近傍から白い色が出るという方法を使っています。
現在、私たちはすでにカルマン渦を知っているので、なにも疑問を持ちません。
ところが、発見当時の常識は、円柱のような対称形を横切る流れのパターンは対称でなければならないというものでした。実験をしている人は、円柱の表面が歪んでいてこのような渦パターンが出来たのかもしれない、もっと円柱の表面をきれいに磨いてみようといったことを思い、毎日、実験をしていたようです。
Theodore von Kármán さんは、その横を通り過ぎながら、ここまで慎重に実験をしてもこのようなことが起きるのは何か意味があるかもしれないと考え、仮にこの写真にあるような渦ができたとして、果たしてそのような渦の配置が安定でいられるのか、安定でいられるとしたらその条件はどのようなものかを理論計算しました。安定であれば、現象として起こり得ると言えるからです。その結果、写真のような渦の配置が安定して生じる条件があることを発見しました。それでKármán渦(カルマン渦)という名前がついたとのことです。
いまの知識では、カルマン渦は、二次元円柱の直径 d、流速 U、水の動粘性係数 ν(=粘性係数/密度)、で定義されるレイノルズ数 Re = Ud/ν が 約50となったあたりから生じる事がわかっています。
機械工学辞典 カルマン渦 を参照
上に示したカルマン渦の写真は、Re=140 の結果です。
この写真にある実験は、九州大学応用力学研究所 種子田定俊先生によるものです。
この話はいくつかの教訓が含まれています。
対称な物体の周りには対称な流れが生じる
これは幾何学的な考え方で、信念のようなものです。
しかしながら、実際の現象を引き起こしているものは水という流体です。
信念をもった人が継続して丁寧な実験を反復したけれども、やはり不思議なことが起こる
その活動が、理論的に検討をしてみようという新しい動きを誘発することになったわけです。
これが新発見につながりました。
今の時代は、忙しくて、このような活動を続けることがじっくりできない
一度、ダメと棄却されたら、それを本当かどうか追試する人もいず、ダメだったという結果だけが引き継がれていく。
もし、皆さんが従来の結果について何か疑問をもつようなことがあれば、もしかすると新発見につながるチャンスかもしれません。